市役所の前で仲むつまじく寄り添い、婚姻届を手にパシャリ。結婚するカップルには定番の記念写真だ。ここにある1枚がちょっと違うのは2人が男性ということ。日本では同性婚は認められていないはず…どういうことだろうか?
沖縄で暮らすブライアント・レイさんと船橋祐二さんは今年4月末、浦添市役所に婚姻届を提出した。2人とも自認する性は男性で、性的指向も男性に向いている。つまり男性として男性を好きである「ゲイ」を自認する。 【写真】お気に入りの海岸を歩く2人 ゲイカップルだけど戸籍は「男女」… ただし、レイさんは女性の体で生まれて今は男性として生きる「トランスジェンダー」だ。20歳の頃に性同一性障害の診断を受けた。体へのリスクを伴うことや、男性として社会生活を送れていること、そして身体の一部のあるなしで性別を判断されることへの抵抗感から、性別適合手術は受けていない。日本では、戸籍の性別を変更するためには性別適合手術が必要なため、レイさんの戸籍上の性別は女性のままだ。
レイさんと祐二さんが提出した婚姻届の様式
出会ってから今年で2年、自然に結婚を意識したというレイさんと祐二さん。一部の自治体が同性カップルを「結婚に相当する関係」と認めるパートナーシップ制度の利用も考えたが、この制度には法的拘束力がない。 例えばパートナーが危篤でも病院で付き添えなかったり、財産を相続できなかったりと不利益を生じる場面が多々ある。
レイさんにとって、もしものとき家族とみなされない不安が大きかった。女性として婚姻することに葛藤はあったが「周囲は自分のことを男性として、なんなら『レイ』という一個人として扱ってくれる。今はそれでいいじゃないかと割り切りました」 2人で相談して、姓はレイさんの姓を名乗ることにした。「名字にそれほどこだわりはない」と思っていた祐二さんも、いざとなると「マリッジブルー」に陥ったという。「この名前で37年生きてきた。『急になくなっちゃうんだな、消えちゃうんだ』っていう不思議な感覚。それと、手続きがいろいろあって面倒くせーっていうのも大きかったですね」と苦笑いする。
銀行の通帳、免許証、保険、クレジットカード…。改姓する側に氏名の書き換えが求められるものの一例だ。祐二さんとレイさんは「これが女性の場合だと、夫の姓に変えるのが当たり前という風潮がある。そこに妊娠や出産も重なるとさらに大変だと思う」と語り、同性婚と同様に選択的夫婦別姓についても早期実現を願うようになった。
友人らから祝いの花束をもらって笑顔のレイさんと祐二さん=2021年4月、浦添市役所
婚姻届を書く段階では、その様式にも引っかかったという。氏名欄の上に印字されている「夫になる人」「妻になる人」の表記。続き柄の欄にはスペースを置いて「 男」「 女」とあり、ここに「長男」や「二女」などと書き込む。レイさんは「自分の手でこの欄を書き込むのは違和感があった」と言う。 レイさんと祐二さんの届け出に立ち会った友人は「こうしたことに違和感や疑問を持たない人が多数。だから社会がなかなか変わらないんだと思う」と話した。
レイさんが理想とするのは、手術を受けなくても戸籍の性別を変えられ、同性婚も認められる社会だ。 現行の日本の法律では、手術に加えて未婚であることも性別変更の要件になっている。つまり、手術を受けておらず既婚者でもあるレイさんが性別を変更することは不可能だ。 昨年5月時点で同性婚を容認する国や地域は29に上り、先進7カ国(G7)で同性カップルを法的に認めていないのは日本だけ。手術を受けなくても、性別変更を認めている国も多くある。
レイさんは「もちろん身体的特徴も含めて男性になりたいと望む人もいるし、僕のように体に負担をかけてまでなぜ『自分の性別』に戻らないといけないのかと思う人もいる。手術の有無で決めず選択肢がほしい」と言い、自らの性を自分で決める権利の獲得を訴える。 「夫夫(ふうふ)」として新たに歩みだした2人。レイさんには気をつけていることがあるという。「『幸せにするよ』とか『幸せにして』っていうのは嫌なんです。それぞれに自立して互いを尊重するからこそ、一緒に幸せになれる」。それぞれのアイデンティティーを否定も制限もせず、尊重して支え合う-。レイさんの言葉はそのまま私たちが生きる社会に向けられている。 (大城周子)